→ Prehospital ALS 学習ノート(AHA 2025)
心臓のしくみを「血液の通り道・弁・送り出す量・電気の流れ」の4つで確認します。NHLBI・StatPearls・AHA/ACC などの公開資料をもとにした自習用まとめです(出典は「循環器疾患」タブの最後)。図は理解のために単純化しています。
心臓は左右2つのポンプが並んだ臓器です。右側は全身から戻った酸素の少ない血液を肺へ、左側は肺で酸素を受け取った血液を全身へ送ります。
青=全身から戻る血液(静脈血)、ピンク=肺から戻った血液(動脈血)。白いひらひらが弁です。
中の血液の酸素の多さではなく流れの向きで決まります。心臓から出ていく血管が動脈、心臓へ戻る血管が静脈です。そのため肺動脈は酸素の少ない血液を、肺静脈は酸素の多い血液を運びます。
三尖弁 Tricuspid肺動脈弁 Pulmonary僧帽弁 Mitral大動脈弁 Aortic
弁は前後の部屋の圧の差で開いたり閉じたりし、血液を一方向にだけ流します。心房と心室の間が房室弁(三尖弁・僧帽弁)、心室の出口が半月弁(肺動脈弁・大動脈弁)です。
収縮期(心室が縮む):半月弁が開き、房室弁は閉じる
拡張期(心室が広がる):房室弁が開いて心室に血液が入り、半月弁は閉じる
Ⅰ音:房室弁が閉じる音(収縮期の始まり)
Ⅱ音:半月弁が閉じる音(拡張期の始まり)
CO = HR × SV:心臓が1分間に送り出す血液の量。安静時の成人ではおよそ 5〜6 L/分です。
スライダーを動かして計算してみてください。実際の値は体格や活動量で大きく変わります。
前負荷:収縮の直前に心室がどれだけ満たされ、引き伸ばされているか
収縮力:心筋が縮む力の強さ
後負荷:血液を押し出すときにかかる抵抗
ほかの条件が同じなら、前負荷・収縮力が増えると SV は増え、後負荷が増えると SV は減ります。ただし前負荷で SV が増えるのは生理的な範囲までです。心不全などで心臓のポンプ機能が落ちていると、前負荷が増えても SV が十分に増えず、うっ血(肺や体に水がたまる)が強まることがあります。
拡張期に心室へ多くの血液が入って心筋が伸びるほど、次の収縮が強くなるという性質です(一定の範囲まで)。
拡張期が短くなって心室が十分に満たされず、SV が減ります。そのため HR が上がっても CO が増えない、むしろ減ることがあります。
洞結節が自分でリズムをつくり(ペースメーカー)、興奮は心房 → 房室結節 → 心室へと伝わります。房室結節で少し遅れるのは、心房から心室への血液の送り込みが終わってから心室を縮めるためです。
ECG では P 波=心房の興奮、PR 間隔=房室結節を通る時間を含む、QRS=心室の興奮、T 波=心室の回復(再分極)に対応します。
房室結節やヒス束で伝わりにくくなると房室ブロック、左右の脚で途切れると脚ブロックになります。ECG タブのアニメーションで実際の流れを確認できます。
代表的な循環器疾患を「何が起きる → 体はどうなる → どう見つける」の順に整理しました。公開ガイドラインや StatPearls をもとにした自習用まとめで、個別の診断・治療の判断には使えません。
心臓が体に必要な血液を十分に送り出せない、または送り出すために高い圧が必要になった状態です。1つの病名ではなく、さまざまな心臓病の行き着く状態を指します。
左心不全:血液が肺にたまる → 息切れ、横になると苦しい(起座呼吸)、肺のラ音
右心不全:血液が全身の静脈にたまる → 足のむくみ、頸静脈の怒張、肝臓の腫れ
A:リスクがある(高血圧・糖尿病など)
B:心臓の構造に異常があるが症状はない(pre-HF)
C:症状がある、またはあった
D:治療を尽くしても症状が強い進行期
① ARNI・ACE 阻害薬・ARB のいずれか ② β 遮断薬 ③ MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬) ④ SGLT2 阻害薬
冠動脈の動脈硬化で心筋への血流が足りなくなるのが冠動脈疾患(CAD)。冠動脈内の血栓などによって血流が急に減ったり止まったりし、急激に心筋虚血が生じるのが急性冠症候群(ACS)です。血栓は、プラークの破裂やびらん(表面がはがれること)などをきっかけにできます。
ACS は「冠動脈内の血栓などによって急激に心筋虚血が生じている」緊急事態をまとめた呼び名です。狭心症のうち ACS に入るのは不安定狭心症だけで、心筋梗塞(NSTEMI・STEMI)はどちらも ACS に入ります。
発症から数時間はまだ上がらないことがあるため、時間をおいて繰り返し測ります。心電図が正常でも ACS は否定できません。
酸素:SpO₂ が 90% 未満など低酸素のときに使う(全員にルーチンでは使わない)
アスピリン:禁忌がなければ早期に
ニトログリセリン:低血圧・PDE5 阻害薬の使用・右室梗塞の疑いでは注意
心筋そのものの病気です。心室の「形」と「動き方」の違いで分けます。
拡張型(DCM):心室が大きく、壁が薄くなり、縮む力が落ちる
肥大型(HCM):心筋が厚くなる。遺伝性が多く、厚い部分が左心室の出口をふさぐことがある
拘束型(RCM):心室が硬くなって広がりにくく、拡張期に血液が入りにくい(拡張障害が主な特徴)。心室の大きさはほぼ正常で、壁の厚さは原因によって異なる(アミロイドーシスなどでは厚くなる)
DCM は「縮めない」(収縮障害)、HCM と RCM は「広がれない」(拡張障害)が中心です。どれも心不全や不整脈の原因になります。
右心室の心筋が脂肪や線維に置き換わり、不整脈や心停止の原因になります。10代〜若い成人に多いとされます。
弁の異常は狭窄(十分に開かない)と逆流(きちんと閉じない)の2つに分けて考えます。
狭窄 Stenosis:出口が狭くなり、手前の部屋が強い圧で押し出し続ける(圧の負担)
逆流 Regurgitation:送り出した血液が戻ってきて、部屋に余分な量がたまる(容量の負担)
収縮期:大動脈弁狭窄、僧帽弁逆流
拡張期:大動脈弁逆流、僧帽弁狭窄
収縮期に開くはずの弁が狭い・閉じるはずの弁が漏れる、と考えると整理しやすくなります。
主に症状の有無と、心室の機能が落ちてきたかどうかで治療の時期を決めます。大動脈弁狭窄では外科的な弁置換(SAVR)とカテーテル治療(TAVI)があり、患者と医療者で相談して選びます。
末梢動脈疾患(PAD):主に脚の動脈の動脈硬化。歩くとふくらはぎが痛み、休むと治まる(間欠性跛行)。足首と腕の血圧の比(ABI)で調べる。
腹部大動脈瘤(AAA):腹部の大動脈が広がってこぶになる。多くは無症状で、破裂すると命に関わる。治療を考える目安は径 5.5 cm 以上(女性は 5.0 cm 以上)。
深部静脈血栓症(DVT):主に脚の深い静脈にできる血栓。片脚の腫れ・痛み。原因は「血流のよどみ・血管の傷・固まりやすさ」(ウィルヒョウの3徴)。
肺塞栓症(PE):DVT の血栓が流れて肺動脈に詰まる、最も重い合併症。
Wells スコアで可能性を見積もり、D ダイマーと脚の静脈の圧迫エコーで確認します。治療の中心は抗凝固薬です。
心筋炎:心筋の炎症。ウイルス感染のあとに多く、胸痛・息切れ・動悸で始まり、心不全や不整脈を起こすこともある。トロポニン上昇、心臓 MRI が診断の手がかり。
急性心膜炎:心臓を包む膜の炎症。①特徴的な胸痛(前かがみで楽、深呼吸で悪化)②心膜摩擦音 ③広い範囲の ST 上昇・PR 低下 ④心膜液、のうち2つ以上で診断する。
心膜液が急にたまると心臓が広がれなくなり、血圧低下・頸静脈の怒張・心音が遠くなる(ベックの3徴)。心膜穿刺で液を抜きます。
急性期は運動を控えます。競技スポーツは少なくとも 3〜6 か月は避け、評価を受けてから復帰します。
このタブと「循環器の基礎」タブの文章・クイズは、以下の公開資料を確認して独自にまとめたものです。最新の情報や詳しい内容は各資料で確認してください。
誘導(Lead)とは、電極で測った電位を組み合わせて、心臓の電気活動を特定の方向から観察する方法です。電極間の電位差から、それぞれの誘導の心電図波形を作ります。+側は「カメラを置く位置」、-側は比べるための基準です。心臓の電気が+側に向かってくると、波形は上向きになります。
患者と向かい合った向き(患者の左が図の右)。青=四肢誘導(前額面)、赤=胸部誘導(水平面。楕円の下側が体の前)。四肢誘導の6つは、心臓の電気活動を前額面(体を正面から見た面)の異なる方向から観察します。各誘導には固有の角度があり、心臓の電気の向きによって波形の向きや大きさが変わります。胸部誘導の6つは体を輪切りにした面で、右前(V1)から左横(V6)まで心臓を囲むように見ます。
第4肋間=第4肋骨のすぐ下のすき間。V1・V2 は胸骨のすぐ右・左の第4肋間、V4 は鎖骨中線上の第5肋間です。V5・V6 は V4 と同じ高さで、正面から見ると重なって見えます(V6 は体の横、中腋窩線上)。
図:Mikael Häggström「Precordial leads in ECG.svg」(Wikimedia Commons、CC0)を改変
| 誘導 | 貼る位置 | 主に見る部位 |
|---|---|---|
| V1 | 右胸骨縁 第4肋間 | 中隔 |
| V2 | 左胸骨縁 第4肋間 | 中隔 |
| V3 | V2 と V4 の中間 | 前壁 |
| V4 | 左鎖骨中線 第5肋間 | 前壁 |
| V5 | 左前腋窩線(V4 と同じ高さ) | 側壁 |
| V6 | 左中腋窩線(V4 と同じ高さ) | 側壁 |
1回の心拍で描かれる波形には名前があり、それぞれ心臓のどこで何が起きているかに対応しています。
図は II 誘導のような典型的な形です。PR・QRS・QT の長さはどの誘導でも同じ心臓の出来事なので共通ですが、波の形・向き・高さは誘導によって変わります(例:aVR では P 波も T 波も下向きが正常)。
| 部分 | 心臓で起きていること | 時間(どの誘導でも共通) | 形(II 誘導の例) |
|---|---|---|---|
| P 波 | 心房の興奮(心房が縮む合図) | — | 小さくなだらかな上向きの山 |
| PR 間隔 | 心房の興奮が始まってから、房室結節を通って心室に届くまで | 0.12〜0.20 秒 | — |
| QRS | 心室の興奮(心室が縮む合図) | 幅 0.12 秒未満 | 鋭く大きい、上向き中心の波 |
| ST 部分 | 心室全体が興奮し終わった時間 | — | ふだんは平ら(心筋虚血で上昇・低下することがある) |
| T 波 | 心室の回復(再分極) | — | 上向きの山(QRS と同じ向き) |
| QT 間隔 | 心室の興奮から回復まで | 心拍数で変わるので、補正した値(QTc)で見る | — |
| U 波 | T 波のあとの小さな波 | — | 見えないことも多い |
正常:洞結節から規則的に心房が興奮。
異常:心房内で多数の不規則な電気活動が起こり、心房がまとまって収縮できません。P波ははっきりせず、R-R間隔が不規則になります。
正常:心房は1回ずつ整然と興奮。
異常:心房内を電気が規則的に回るリエントリーが起こります。鋸歯状のF波が特徴です。
正常:洞結節が心拍を決める。
異常:心房やAV node周辺のリエントリーなどで、上室から非常に速い規則的な刺激が心室へ伝わります。QRSは狭いことが多いです。
正常:心房の刺激が適切な時間で心室へ伝わる。
異常:刺激は毎回伝わりますが、伝導が遅くなりPR間隔が延長します。
正常:PR間隔はほぼ一定。
異常:PR間隔が徐々に長くなった後に、QRSが1回脱落します。
正常:心房刺激は安定して心室へ伝わる。
異常:PR間隔は一定なのに突然QRSが脱落します。His-Purkinje系の障害が多く、より重い伝導障害へ進むことがあります。
正常:P波の後にQRSが続く。
異常:心房から心室へ刺激が伝わらず、P波とQRSが互いに無関係に出ます。
正常:洞結節→His-Purkinje系を通って心室が興奮。
異常:心室の一部が予定より早く興奮します。正常伝導路を通らないため、幅広いQRSになりやすいです。
正常:心室は上からの刺激で規則的に収縮。
異常:心室内から速い刺激が連続して発生し、wide QRSの頻拍になります。
正常:心室全体がまとまって収縮。
異常:心室の電気活動が無秩序になり、有効な心室収縮ができません。明瞭なQRSは認めません。
正常:右脚・左脚から両心室へほぼ同時に伝導。
異常:右脚の伝導が遅れ、右心室が左心室より遅れて興奮するためQRSが広くなります。
正常:両脚から両心室へほぼ同時に伝導。
異常:左脚の伝導が遅れ、左心室が右心室より遅れて興奮するためQRSが広くなります。
正常:II・III・aVFにST上昇なし。
異常:下壁側に急性心筋傷害が起こり、II・III・aVFでST上昇がみられます。
正常:V1〜V4にST上昇なし。
異常:前壁〜中隔に急性心筋傷害が起こり、V1〜V4でST上昇がみられます。
正常:I・aVL・V5・V6にST上昇なし。
異常:左側壁に急性心筋傷害が起こり、I・aVL・V5・V6でST上昇がみられます。
基礎と病態生理を、説明を思い出しながら練習します。正答後は理由も確認してください。
このページの心臓の断面図(血液の流れ、電気の流れ、冠動脈、心筋症、弁膜症の図)は、Wikimedia Commons の 「Heart diasystole.svg」 (原画:Wapcaplet、Reytan/ベクター化:Sjef)を改変したものです。原図は CC BY-SA 3.0 (GFDL 1.2 以降とのデュアルライセンス)で公開されています。
改変内容:配色の変更、元の矢印の削除、ラベル・刺激伝導系・冠動脈・病変表示・アニメーションの追加、部屋の形の変更(心筋症・弁膜症)。
改変したこれらの図は、原図と同じ CC BY-SA 3.0 で提供します。
ECG タブの胸部誘導の図は、Mikael Häggström「Precordial leads in ECG.svg」(CC0 1.0、パブリックドメイン)を改変したものです。改変内容:肌の写真を単色の肌色に置き換え、肋骨を白く調整、元の英語ラベル・電極表示を削除し、日本語ラベル・電極(IEC/AHA の色切り替えに対応)を追加。